越後のやさい旅(1)ナス王国新潟

在来の地方やさいとたねを探しに山間部をめぐるちぃさんぽ。探しものはやさいやたねだけでなく、それを受け継いできた人々のものがたり。今回のおさんぽは、越後の国。とても貴重なお話がたくさん聞けたので3回にわたってお伝えしたいと思います

 

■ナス王国新潟へ・・・

東京都内から電車で1時間半。長いトンネルを抜けると、車窓いっぱいの穀倉地帯が広がります。日本有数の米所として知られる新潟は、ナス王国でもあったのです。長岡巾着ナス、十全ナス、梨ナス、鉛筆ナス、越の丸―。全国で約70種類あるといわれるナスの約1割が新潟にあると言われています。焼きナス、蒸しナス、漬物用ナス、用途ごとに品種を使い分ける新潟県民は日本一ナスをよく食べるとも言われています。そんなナスのふるさとを訪ねました。

 

■長岡巾着ナス

「ナスは固くてしまってるものでないと。新潟では、ナスは焼くか蒸かして食べるもんだからさ」
と、話すのは、巾着ナスを作り続けて50年のベテラン農家、小林幸一さん。

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写真:笑顔で畑を案内してくれたナス農家の小林幸一さん
私が京都から来たと言うと、賀茂ナスがホテルで1個800円で取引されている話、京都の上品な賀茂ナスは、蒸すと煮崩れするから新潟では売れないという話を聞かせてくれました。

ナスは柔らかいものだと思ってました。ところが、固くしまった長岡巾着ナスを蒸かすと、マグロのトロにもまけないくらいの旨みがでるのだという。

こうなったら、「百聞は一見に如かず、一見は一食に如かず」です。

たねのうたのメンバーのいけだまりこちゃんといろんな品種のナスを、皮つき、皮なしに分けてひたすら蒸して食べました。

「うまい!なんだこれは?!」ナスファンになりそうです。

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さて、衝撃的すぎて畑から脱線してしまいました。つづきは、たねうたラボでご紹介します(たぶん)
小林さんの畑があるのは、なんと信濃川の河川敷。
橋の下に畑があるとは聞いていましたが、さすが、日本一の流れを作る川!河川敷にテニスコートや運動場があり、賑わっていました。
中部山岳地帯からはるばると運ばれてきた山のミネラルが、豊かな土壌を育んでいます。
大雨のあとの河川敷にもかかわらず、意外にも土はさらさらしているんですね。

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写真:多様な食文化を育んだ信濃川河川敷。手前は小林さんの畑
信濃川の中州で作られていた長岡巾着ナスは、かつて「中島巾着ナス」と呼ばれていました。
信濃川を挟んで町は川西と、川東にわかれます。今は橋でつながっていますが、昔は米や油を積んだ船が行き来するだけで、経済価値の低い野菜の往来はほとんどありませんでした。
川東には城下町が広がり、油を運ぶ船が荷を着けました。川西では作られた野菜は、川東の城下町よりも、川沿いに山手に入った小千谷に渡っていました。野菜を作っていたのは川東に近い中島地区と、川西の河川敷。百姓の嫁がリアカーを引いて、「振り売り」に歩くのが習わしだったと言います。長岡野菜は、信濃川流域で生まれたのです。
この河川敷の畑で小林さんが作られているのは、長岡巾着ナス、梨ナス、水ナス、越の丸。

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写真:梨ナス
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写真:水ナス
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写真:巾着茄子

昔から河川敷一帯では、主に、サツマイモ、じゃがいも、ゴボウなどとにかくカロリーになるものを優先して作られていたと言います。
「土地をもっている人、金持ちの農家は米をやった。土地がないものは、河川敷を耕すしかなかったから、できるだけ腹を満たすことを考えた」
里芋にゴボウに根菜類・・・あ、それって「のっぺ汁」の材料!
そうしたカロリー重視の畑作の中で、カロリーの低そうなナスが、どうしてこれほどまでに多様性に富み、越後の人々に愛されてきたのでしょうか。
そんなことを考えながら、5種類のナスを収穫させてもらいました。

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■種を残すために・・・

小林さんによると、昔は、丸ナス、梨ナス、巾着ナスの区別はなく、まとめて「巾着ナス」と呼ばれていました。明治40年代に発行された「新潟園芸要鑑」には、ナスの品種は主に、「丸ナス」、「千成」、「丸巾着」の3種類に分かれると書かれています。巾着ナスにも、ひだのないものもあり、各家庭の自家採種で受け継がれていた時代には、本当に多様な形があったのです。ひだのあるものを「長岡巾着茄子」として残していこうと、種を選抜し、ブランド化を進めたのが「長岡野菜研究会」でした。
昔から作られてきた「梨ナス」を某種苗会社が改良し、ほとんどの生産者が収量の高いその改良ナスを生産するようになり、「本来の梨ナスの味ではなくなってしまった」と言います。
そこで、地元の種屋さん「米重」や「米三」らが、自家採種により種を保存。苗を専門に作る農家が苗を作り、ブランドナスを生産する農家に配布するという3者の連携により、本来の巾着茄子や梨ナスの形質を維持しているようです。
種やさんを訪ねると、巾着ナスや梨ナスは、棚にはならんでおらず、「種が見たい」というと、突然の来訪にも関わらず、店の奥から出してきてくださいました。
こちらが、去年採種された梨ナスの種です。

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■ナスのいろいろ

余談ですが、長岡から離れ、北上すると、いつのまにか、巾着ナスが市場から消えていました。そして、えんぴつナス、焼きナス、丸ナスが現れます。

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盆市に出される飾り物の赤ナス。

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白ナス。

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これらは、いまでも家庭の庭で自家採種によって受け継がれているのです。
村上、新津、新潟の市には、多種多様なナスが市場を賑わせていました。

ナス王国新潟からのレポートでした。
(まえだちさと)

 

 

参考文献:

長岡野菜研究会「えちごふるさと長岡野菜‐ふるさとの伝統的な野菜の復権をめざして」平成12年10月発行

 

前回記事:

たね畑のちぃさんぽ(1)カラトリ芋

たね畑のちぃさんぽ(2)ファーマーズファクトリー チヨちゃんの野菜

たね畑のちぃさんぽ(3)富士山麓の湧水で育つ野菜(水かけ菜)

たね畑のちぃさんぽ(4)まぼろしの小豆、薦池大納言と鬼の伝説